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「海軍少尉、佐々木武雄、異界ニ眠ル、か」 シエスタにひい祖父の墓の前に案内されたシュトロハイムが呟く。 「え、シュトロハイムさん、これ読めるのですか!?」 「腐っても大佐だ、ドイツ語はもちろん英語フランス語デンマーク語イタリア語日本語などお茶の子よッ!」 「よくわかんないけどすごいわねー」 キュルケがパチパチと手を叩く。 「へえ、平民で大佐とはすごいな、僕の家も長く武家をやってるが、平民で佐官まで上り詰めた人間なんて そう聞いてないな。君の国はどこなんだい?」 ギーシュがそう尋ねた。 「う、うむ…ま、まあその話はオスマンにでも聞いてくれ…」 すると途端にシュトロハイムの歯切れが悪くなる。 「なによー、別にいいじゃない、言っちゃいなさいよ」 キュルケが促す。 シュトロハイムは特徴的な髪を片手でいじりながらゴホン、と咳をしてから話した。 「うむ、それなんだが…信じてもらえないかもしれないが、違う世界から来たのだ」 「違う世界ですって?そういえば私の使い魔もチキュウというところから来たって言っていたわね」 シュトロハイムがものすごい形相でルイズに振り向いた。 「なんだと、そう、俺もその地球から来たのだ!うむ、一度あってみたいな、その使い魔とやらに!」 「まあ、そのうち会えると思うわ」 「うむ、楽しみにしているぞ!」 シュトロハイムが大きく頷く 「あまり過度な期待はしないほうがいいと思うけれどね」 「よし、これで遺言通り墓碑銘も読んで機体も頂けた、あとはガソリンを入れるだけだぞ、コルベール!」 「うむ、ぜひともあれを飛ばしてみたいですぞ!」 シエスタがにっこりと笑う。 「わたしも、ぜひともあれが飛んでいるところをみたいですね」 「うむ、では初飛行と行こうか、空の羽衣、いや零式艦上戦闘機五二型のな!」 「ふむ…よい整備状況だが、少々無線とかををいじらねばな」 シエスタに空の羽衣の場所まで案内されたシュトロハイムは、周りを調べながら呟いた。 「ほう、無線とはなんですかな?」 コルベールが興味津々で尋ねる。 「まあ待て、コルベール、俺の胴体を一旦解体してくれ…うむ、そうだ、そしてそこの四角い物を 取り出して…ああ!コルベール、もっとやさしく!そこはダメだッ!ダメッ!ダメッ! そう、そうしてそれを取り出したら、横の……」 作業が終わるのを暇そうに一行は眺める。 「それにしてもここは眺めのいいところねー」 キュルケが大きく体を伸ばす。 「ええ、わたしもこの景色、大好きですよ…田舎ですけれどもね」 シエスタがはにかむ。 「ああ、そうでした、ここのワインは景色とならんで自慢なんですよ! 後で振る舞いますのでぜひどうぞ、シュトロハイムさんたちもどうですか?」 しかし、彼らは集中しきって聞いていない。 いつのまにかギーシュも見慣れない部品でできたシュトロハイムの体に興味津々だ。 「まったく、これだから男の子ってのはねえ…」 キュルケがなにかを悟ったように呟いた。 「うむ、これで完成だ!では飛ばすぞ!…しかし、戦闘機に乗るなど久しぶりだな、 ルフトバッフェから降ろされたのがこの体になってからの唯一の心残りだったが、それも晴れた」 エンジンが音を立てて震えだし、シュトロハイムはゼロ戦に乗り込む。 「滑走距離よし、離陸する!」 長い長い草原の上を地平線めがけて車輪が回り、機体が進み始める。 かなり長い距離を進んでいき、そして、ゼロ戦は唐突に車輪が地面から離れた。 ゼロ戦は浮き上がり、そして大空へ舞い上がった。 近くの住民たちが歓声を上げる。コルベールの歓声は一際大きかった。 「天気晴朗な…ど波高し…どう…聞こえ…か?」 空にいるはずのシュトロハイムの声が後ろから聞こえ、驚いてルイズ達は振り向く。 「ど、どこにいるのシュトロハイム!?」 「コルベ…ル…渡した機械に向か…て声を吹き込んでくれ」 コルベールはハッとして四角い箱につながれた小さな箱を拾う。 「こ、これはなんですかシュトロハイムくん!?」 「うむ…よく聞こえるぞ、コルベール、これは無線とい…てな…ある程度離れてもこうやって 会話をすることができるのだ、動力は先ほど俺から取り出したバッテリーで動いているウウウウッ! ゼロ戦にももちろん積んであったが、我がナチスの電撃戦のカギは密接な連絡と指揮ィイイイイッ! 文字通りの機械化歩兵である俺に無線を積んでいないわけがないィイイイイイイッ!」 コルベールは興奮した顔で声を吹き込む。 「すごいですな、シュトロハイムくんの世界は!死ぬ前にお目にかかりたいものです!」 シュトロハイムの笑い声が聞こえた。 「あまりガソリンの無駄遣いはできんからな、そろそろ着陸する…全員機械を抱えて森の方まで避難してくれ」 シュトロハイムの乗ったゼロ戦は空中で華麗に旋回し、地面に車輪をつけ、数百メイル進んだのちに止まり、 中からシュトロハイムが降りてきた。 「どうだった、コルベール?」 「素晴らしいですな!あれにエンジンが使われているというのは驚きですな! 発明家としての血が沸きますぞ!」 「うむ、ではそのうちにこれを魔法学院に持っていく、着陸できそうな所を見繕っておいてくれ、 ではここの名物のワインを頂こうとするか!」 「なによ、あんたちゃっかり聞いてたのね」 キュルケがシュトロハイムをつつく。 「ワインとチーズには目がなくてな、あとはザワークラウトでもあれば言うことなしだな、 うむ、あちらの世界でちゃんと料理を学んでおけばよかった」 シュトロハイムが唸る。 シエスタの家に向かうと、近くの住民たちが集まって大がかりな歓迎会を開いていた。 この村の宝である『空の羽衣』が本当に飛んだのをみて急遽用意した、とのことだった。 村長が泣きながら現れ、コルベールとシュトロハイムに頭を下げ、シュトロハイムに抱きついた。 コルベールに抱きつくのは彼が貴族のため自粛したようだったが。 「素晴らしいワインですな、これは!」 コルベールが感嘆する。 「貴族様にそう言っていただけると光栄です」 そう言った住民にシュトロハイムが首を伸ばして酔った顔で言う。 「おい、そいつはお前が思ってるような貴族じゃないぞ、土と油にまみれた高貴さなんてかけらもない奴だ! そんな奴に敬語なんて使ってもなにもでんぞ、わははははは!」 といって豪快に笑う。 「そ、そんな、畏れ多いですよ…」 「ははは、いいんだよ、一応教師をやっているがこうやって休暇をとって好き勝手やっているんだからね! しかも、生徒たちにこんなところで好き勝手やっていることがバレてしまったし、面目が立たないですな! しかし、それでもこのワインとチーズを楽しめただけでもあの『空の羽衣』を研究した甲斐はありましたぞ!」 「ありがとうございます、コルベール様、それでは次のワインを持ってきますね」 コルベールは頬をかく。 「うむ、なんだか催促したみたいになってしまいましたな…」 生徒たちも思い思いに楽しんでいた。 「UMEEEEEEEEEE!」 「このチーズがワインを、ワインがチーズを引き立てるッ!『ハーモニー』っていうのかしら、 『味の調和』っていうのかしら!例えるならホワイトスネイクとルイズ! 神田に対する栗原!ベルリンフィルハーモニーに対するサイモン!って感じだわ!」 「ところでコルク抜きもってないかしらあ?」 ギーシュ、ルイズ、キュルケも酔っぱらい、 いつのまにかシエスタも飲み始めていた。 「るいずさーん、一発芸やりますねー、口にワインを含んでー、パウパウッ!波紋カッター!」 「すごいわねーシエスタ、それどこで習ったのー?」 「えへへー、曾祖母のリサリサっていう異世界からきたひとからー、あれれー?私の曾祖母は 普通の人ですよねー?えへへーやっぱりわかんないですー」 あまりに酔いすぎているため、これは帰らせるのは無理だと判断したコルベールは泊まっている シュトロハイムの小屋の近くにある宿に放り込んだ。 「あー、頭痛いわ…」 そう言って一階にルイズは降りていく。 ワムウに起こされているせいか、早起きはどうやら得意になったようである。 降りていくと、コーヒーを飲んでいるシュトロハイムがいた。 「ほお、なかなか早いな。あの少年よりは軍人向きかもしれんぞ?」 「あなたは元気ね、シュトロハイムさん。私たちは全員二日酔いで唸ってるわよ」 「軍人だからな、鍛え方が違う。敵は常にウォッカ飲んでるような奴らだったしなおさらだ」 「…ねえ、シュトロハイムさん、異世界から来たって言ったけれど…元の世界は恋しくないの?」 シュトロハイムは頬を緩ませる。 「貴女は優しいな、恋しいこともある。あの風土、食品を味わえんと思うとな」 「家族とか友人は恋しくならないの?」 「父母はいるが、まあなんとかやっていけるだろう。弟は先に戦争で死んだ。友人も、部下も、 優しい上官も厳しい上官も多く死んだ。俺が死なせたものも多くいる。俺がいなくなった戦場はどうなっているか 気がかりであるが…大佐一人で歴史はかわらんさ、閣下のように伍長から政治畑に上っていく器でもない。 なるべくようになるはずだろうな」 ルイズは黙りこくる。 「地球が恋しいこともある。しかし、俺があちらで死んだ以上、あちらでの俺の人生は終わったのだ。 ここはよいところだぞ、ミス・ヴァリエール。俺には帰るべき故郷はない。 ここに骨をうずめられるならば二度目の人生としては上々だろう」 「そうやって諦めきれるものなの…?」 「そうでも思わんとやっていけん」 そう言ってシュトロハイムはコーヒーをぐいっと飲み干した。 「あっちの世界の知識のある俺なら微力ながらやれることくらいはあるだろう。悲惨な戦争を止めるほどの力はないが、 少なくともゼロ戦を飛ばすことくらいはできる。ここの人たちに笑って貰えたのだからな、かなり上等じゃないか、 お前らを襲うオーク鬼も片付けられたしな」 そう言い終わったあと、キュルケとギーシュが降りてきた。 「あら、ルイズ早いわね」 「いたたたたた、おはよう、ルイズ、キュルケは大丈夫なのかい?」 「トリステイン人とは酒への強さが違うわ」 「そうかいそうかい、どうせ僕は軟弱な下戸さ」 キュルケたちはルイズの横に座る。 「それで、どうするの今日は?」 「もう宝の地図はないし、帰るしかないじゃない」 「結局徒労だったってことね」 ルイズの言葉にギーシュがムッとしていう。 「待て待て、あのカヌーのようなものが飛ぶところをみれただけでもこの旅は素晴らしいものだったぞ!」 「学院にいてもシュトロハイムさんがくるとき見れるじゃない」 「う、まあそうだが」 「まあ、ここでグダグダ言っててもしょうがないわよ、帰る準備でもしましょう」 そういってキュルケが立ち上がったとき、轟音が響いた。 「やれやれ、壊滅的とはこのことを言うのだな」 アルビオン艦隊にいわば『騙し討ち』といった形で攻撃されたトリステイン艦隊・ランベルト号艦長は自嘲的に言った。 「白旗をあげている艦も多くおりますな、罵ってやりたいところだが、そうもいきませんな」 側近の部下が艦長にそう漏らす。 「それで、どういたします、艦長?」 「そんなもの決まっておるだろう」 艦長は杖を構えた。 「勝ったつもりでいる奴らを教育してやる他あるまい、なに、運がよければ痛みもなく死ねるだろうからな」 「あなたも馬鹿ですな、貴族であるあなたは捕虜になるのが関の山でしょう」 「そう言うな、馬鹿な参謀め、『ランベルト』号、八時の方向に砲撃開始!一秒でも長くトリステインの空を守るぞ!」 「どうなっているのです、マザリーニ」 「アルビオン軍はタルブの村に上陸作戦を始めたようですな、もう少し言えば、ゲルマニアの助けは 得られそうもありません…さて、どうするのです?姫殿下?」 「不可侵条約があったはずでは?」 「紙のように破られたようですな」 「マザリーニはどうすべきだと思いますか?」 「タルブを捨てるべきか、水際作戦を行なうか、どちらを姫殿下が選ぶかによりますな」 「捨てられるわけがないでしょう」 「ならば、言わずもがなです」 「わかりました。南方の竜騎士部隊を急行させます。行きますよ、マザリーニ!」 「お姉様、タルブの村がなにかおかしなことになってるのね」 「降りる」 「わかったのね、ワムウ様、しっかりつかまってるのね、きゅいきゅいー!」 To Be Continued...
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春の使い魔召喚。それはトリステイン魔法学院で二年生に進級する為の儀式である。 その使い魔召喚が出来ないと二年生にはなれないのである。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求めうったえるわ!我が導きに、答えなさい!」 桃色の髪の少女、ルイズは 自らの使い魔を呼び出すために四十三回目のサモン・サーヴァントを唱えた。 そして四十三回目の爆発を起こす。 だが今回は今までの四十二回とは違っていた。 爆発した場所に何かがあったのだ。 ルイズは遂に召喚に成功したのかと思い顔を輝かせた…がそれも長く続かなかった。 そこにいたのは気絶している人間だったのだ。それも着ている服からして魔法を使えない『平民』だろう。 魔法を使えない『平民』は、魔法を使える『メイジ』に逆らえない。魔法はそれほどまでに強力なのだ。 ただの平民を召使にするなら何の問題もなく、雑用等をやらせれば良い。 しかし使い魔とはただの召使ではなくメイジの一生の相棒でもあり、様々な能力を要求される。 普通は動物や幻獣が使い魔となり、人間以上の能力で人間にはできない事をする。 だがメイジと平民ではメイジの方が力が上、そしてメイジにはできない事が出来る者が使い魔としては理想なのだ。 つまり、平民には使い魔にする価値が無いのだ。 それ以前に平民を使い魔にするなんて事は前例すらない。 故にルイズはやり直しを求めた。 「平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!やり直しさせてください!」 だがその必死の思いもあっさりと却下される。 「春の使い魔召喚は神聖な儀式です。やり直しは認められません」 「そんな…」 「早くしてください。そろそろ新しい育毛剤が届く頃なので早く試してみたいのです」 つい本音を出してしまう儀式の責任者(ハゲ)。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そして気絶している男にキスする。 これがコントラクト・サーヴァント。 召喚した使い魔に使い魔のルーンを刻み 主人の都合のいいように記憶までいじってしまう極悪非道な魔法だ。 召喚された男の左手にルーンが刻まれる。 「はい、ルーンが刻まれましたね。じゃあ今日は終了!解散です!」 そう言ってろくに確認することなくトリステイン魔法学院の自分の部屋へさっさと戻っていった。 周りの生徒も平民を召喚したルイズをからかいながら帰っていった。 気絶している男と残されたルイズは何とかその男を寮にある自分の部屋まで運んでいった。 途中、寮の入り口でバッタリ会ったギーシュに部屋まで運んでもらった。 だがギーシュの真の目的は女子寮に正々堂々と入ることだったらしく 運び終えた後、それに気づいたルイズに白い目で見られた。 日が落ち、男がルイズの部屋で目を覚ましたのに気づいたルイズは 「気がついた?」 と声をかけた。 だが男は状況がよく分かっていないらしく(まあ当たり前だが) 「ここは何処なんだ?そしてお前は誰だ?」 と言った。それを聞いたルイズは言葉遣いや『お前』と呼ばれた事に腹を立てながら 自分は魔法を使える貴族で男は自分の使い魔であることを説明した。 男はその話の内容や、ふと目に付いた二つの月からここが異世界である事を理解した。 ちょっと横を向いて歩いていたらいつの間にか目の前に変な鏡があってその中に入ってしまい意識を失った。 そして気がついたら異世界だった。 その事をルイズに話して元の世界に帰る方法を聞いてみても 「そんな方法無いわよ」 と言われただけだった よって男はある『決意』をした。 「どうせアンタは使い魔らしい事は何も出来ないだろうから出来る事をやらせてあげるわ掃除、洗濯、雑用分かった?」 「分かりました。ご主人様」 「いい返事ね。あ、そうそう一応これも聞いとかなきゃね。私に忠誠を誓う?」 「もちろんです」 主人のためならなんでもする。そんな態度だった。 「使い魔なんだしアンタは床で寝なさい、毛布くらいは恵んであげるわ、感謝しなさい」 「ありがとうございます」 ルイズは自分の使い魔の最初の反抗的な態度が無くなり、忠誠を誓った事に気分を良くし、服を着替え眠った。 男には何か策があって床で寝ているのか? なにもない! 見よ! このブザマな主人公の姿を 男は硬くて寝心地の悪い床で粗末な毛布を被っている だが! だからといって男がこの物語の主人公の資格を失いはしない! なぜなら!… 男はルイズが寝たのを確認し、そして部屋を物色して金目の物をいくつか盗みルイズの部屋から抜け出した! まぎれもない主人公!(テーマが主人から逃げる使い魔のため) 主人公の資格を失うとすれば生きる意志を男がなくした時だけなのだ! 部屋を抜け、階段を降り、ホールらしき所に出た。 そこに金髪の男がいた。その金髪は男を見つけると 「おや?ミス・ヴァリエール(ルイズの事)の使い魔じゃあないか」 男には知る由も無いが、この貴族こそが男をルイズの部屋まで運んだ貴族、ギーシュ・ド・グラモンだった。 「平民のクセに貴族に挨拶も無しかい?君は知らないだろうけど君を運んだのは僕なんだよ?感謝の言葉がいくらあっても足りないんじゃあ…」 「うおりゃああああ!」 ギーシュの首元にナイフを突き刺す。首を刺されたギーシュはそのまま絶命した。 一応言っておくが男は殺しが好きな訳ではない、ただ目撃された以上消しておかねば後々不利になるからだ。 もっとも魔法で探知されるかもしれない危険性もあったが、そんなあるかどうかも分からない事で躊躇するほど男は殺しが嫌いな訳でもない。 ギーシュをちょっと見つかりそうに無い所まで運び、ナイフを抜いた。傷口にマントを当てて血が床に流れないようにする。 そして寮になっている塔を出て、馬小屋を見つけ、馬に鞍をつけトリステイン魔法学院を脱出した。 その後は特に語るほどの事は無い。数年の旅を経て金鉱を見つけ、男はある財団を結成した。それだけだ。 その名は『スピードワゴン財団』 ギーシュ―死亡 ルイズ―使い魔がいなくなったため退学。後にゲルマニアで金を使い貴族になったスピードワゴンに会うが、覚えていなかった。
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窓から差し込む光でジョニィは目を覚ました。 いつもなら日も昇りきらない早朝に起きてすぐに次のゴールを目指して出発するのだが やはり昨日の一件で肉体的にも精神的にも疲れていたらしい。 目の前にある下着を見て昨日の出来事が夢ではないことを悟った。 ジョニィは昨晩寝る前に「ご主人様を起こすのも使い魔の役目!」と言われてたのを思い出し 上半身を起こして車椅子に乗るとベッドに近づいていく。 自称ご主人様はまだベッドの中で寝息を立てている。 (何で僕が堅い床でルイズがふかふかの布団なんだ…?) 昨日の一件を思い出し少しイラッときたジョニィはルイズが寝入っているのを確認しタスクを発現させる。 「タスク───移動する穴───!!」 ジョニィの爪弾が床に撃ち込まれる。 その弾痕穴はルイズのベットに向かっていき… ガゴンッ! 「キャッ!」 ベッドの足を一本破壊して消えた。 「な、何よ!?なにごと!?」 「朝だ、お嬢様」 「はえ?そ、そう…ってなんであたしのベッドが傾いてるのよ!」 「僕に聞くなよ。ただ地震かなんかで足が折れたんだろ」 まだ寝ぼけたままのルイズは「ああ、そんなものなのかな」と納得してしまう。 一方ジョニィはこっちの世界でもスタンドが発現できるとわかり一安心である。 背中に脊椎部の遺体の一部があることも感覚でわかる。 ルイズは起き上がるとあくびをした。それからジョニィに命じる。 「服」 椅子にかかった制服をルイズに向かって放り投げてやる。 だるそうにネグリジェを脱ぐルイズに背を向ける。 「下着」 「は?」 「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」 「………」 なるほど、雑用ね。そう思いながら下着を適当に引っつかんで後ろに放り投げた。 「服」 「君にさっき渡しただろ?僕はもう持っていない」 「着せて」 「僕が?」 「平民のあんたは知らないだろうけど下僕がいるときは自分で服なんて着ないのよ」 「できるわけがないッ!」 いくらなんでも昨日会ったばかりの女の子に服を着せるなんてできるわけがないッ! そう思って振り返ったジョニィは四回言う前に冷静さを取り戻した。 ルイズの体は未発達で出るとこが全然出ていなかったのである。 下着姿のせいで悲しいほどよくわかる。 これだったら年下でもルーシー・スティールのほうがよっぽどスタイルがいいだろう。 それなりに女遊びもしてきたジョニィはルイズの体を見てもどうとも思わず、逆に同情の気持ちがわいてきた。 (最高だったは使えないな…) ジョニィはやれやれといった表情でルイズのブラウスを手に取った。 ルイズと部屋をでると廊下の戸が一つ開き、中から燃えるような赤い髪の女の子が現れた。 身長、肌の色、雰囲気、胸、全てがルイズと対照的な美女だった。 「おはよう、ルイズ。あなたの使い魔ってそれ?」 にやっと笑いながらルイズに挨拶をするとジョニィを指差して今にも噴出しそうな顔で言った。 「そうよ、文句あるのキュルケ」 「あっはっは!ほんとに平民なのね!すごいじゃない!さすがはゼロのルイズ!」 キュルケ、と呼ばれた女の子は腹を抱えて爆笑している。 「あたしも昨日使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で呪文成功よ」 「あっそ」 「どうせ使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ~。フレイムー」 キュルケが勝ち誇った声で使い魔を呼ぶと部屋からのっそりと真っ赤で巨大なトカゲが現れた。 ジョニィは思わず車椅子をバックさせる。 「うおおッ!?なんだこいつはッ!?」 「もしかして、あなた、火トカゲを見るのは初めて?」 「…毒とかある?」 「平気よ。それにあたしが命令しない限り襲ったりしないから」 キュルケは手を顎にそえ、色っぽく首を傾げた。 「これってサラマンダー?」 ルイズが悔しそうに尋ねる。 「そうよー。火トカゲよー。見て?この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。 ブランドものよー好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「そりゃよかったわね」 「素敵でしょ。あたしの属性ぴったり」 キュルケは得意げに胸を張った。ルイズも負けじと胸を張り返すが、まったく勝負になっていない。 ふとキュルケはジョニィを見つめる。 「あなた、お名前は?」 「ジョニィ・ジョースター」 「ジョニィ・ジョースター?ヘンな名前。じゃあ、お先に失礼」 そう言ってキュルケは颯爽と去っていった。 その後をサラマンダーがちょこちょこと追っていく。 「くやしー!なんであのバカ女がサラマンダーでわたしがあんたなのよ!」 隣でルイズが何やらわめきだしたがジョニィはさっきのトカゲのことで頭がいっぱいだった。 どうもあの火トカゲを見ると毒でもあるんじゃあないかと疑ってしまう。 (な、なんで僕はこんなにあのトカゲを警戒しているんだ?) 話を聞いていなかった罰としてルイズに チョップを撃ち込まれた彼の頭には一瞬だけアンドレ・ブンブーンの顔と腫れ上がった指が浮かぶのだった。 To Be Continued =>
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ゼロ#11-A ニコニコ ゼロ#11-B ニコニコ うわぁい、スカロン店長だ! 中途半端のシリアスはこいつの濃さで全部吹っ飛ぶから困る。 店長登場は嬉しいが、平民ビッチの登場はいまいち……。 ただでさえ時間無いのに無駄な要素を出すのは、いかがかと。 つまり、店長=必要、平民ビッチ=不要ってことだ! ついにギーシュ降臨祭。 とは言え、ギーシュの影薄いのも確か。 しかもアイキャッチでずっと引っ張ってきたルイズのエロ猫姿の前では……。 雪の振る中、屋内とは言えその格好は無いだろ……常識的に考えて……(ニヤニヤしつつ やはりギーシュの影が薄いぜー。 もうちょっとサイトとの絡みが欲しいぜー、うほ的なのは抜きにして! サイトが生死について怒る時にモンモンの名前出すぐらいのリップサービスも欲しかったし。 妖精の伏線のこと考えると第三期すら考えてるのだろうか。 あの重要キャラのハゲ死んでしまったのに……。 まぁ多少無理矢理でもハゲが生きてたらそれはそれで嬉しいんだが。 将軍終了のお知らせ。 ビッチ姫は確か水魔法のかなりの使い手じゃなかったか……。 消化してやれよ!と思ったのは僕だけじゃないはずだ。 いきなりの急展開で、いっきにシリアス。 平民ビッチの渡してくれた睡眠薬が毒薬にしか見えないのは僕だけじゃないはずだー! 色々とダメダメだった第二期も来週で最終回。 なんだかんだで最後には期待しちゃってるのも、僕だけじゃないはずだ! 名前 コメント
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「事故死?」 「そ。詳細は分からないけどそのスジの情報だから確かよ。おかげで今朝から『家に戻れ』って家族が うるさくて大変だわ」 「なんで王子の事故死とあんたの帰郷が関係あるのよ」 「はぁ・・・これだからゼロは・・・いいこと? おそらく今回の件で確実にアルビオンは負けるわ。 自分たちの頭か死んじゃったんだから」 「そりゃそうよね・・・ゼロっていうな」 「そうなれば次連中と戦うことになるのはどこ?」 「あ・・・」 そうだ。恐らくアルビオンのクーデターが成功すれば次は間違いなくこのトリスティンが狙われる。 間違っても新政府とトリスティンが和平を結ぶなんてことはないだろうし。 「てわけで家族が戦争になる前に戻ってこいってさ。馬鹿馬鹿しい・・・トリスティンが落ちれば次はゲルマニアなのに」 キュルケの家系はそもそも戦好きだがだからと言って旧来の怨敵に手を貸す必要はない。そう考えているようだ。 「そう、じゃ戻るのね。せいせいするわ。あなたの顔見ないで済むと思うと」 「あら、私は寂しいわよ。頭脳がマヌケなあなたを見れなくなると思うとね」 「なんなら今ここで見れなくしてあげましょうか? 永遠に」 「遠慮しとくわ。それに生きてればまた会えるでしょ、戦場でね」 「いいわ。その時はヴァリエールの名の下に叩き潰してあげるわ」 「私もツェルプストーの名誉にかけて燃やし尽くしてあげる」 そう言ってキュルケは立ち去った。恐らくもう会うこともないだろう。 ルイズ夕方までかかって片づけを済ませいざ自分の部屋に帰ろうとしたところ 「ミス・ヴァリエールですね?」 「そうですが、王国騎士の方が何用で?」 「姫がから勅命を受けてまいりました。城までご同行願えますか?」 「姫様が?」 ルイズは城のアンリエッタの部屋に立っていた。 姫と会うのなんて何年ぶりだろうか。しかしなんで急に私なんかを。 そう考えていると、 「・・・・・おっと。どうやら姫様のお客人が見えられたようです。私はこれで」 部屋から枢機卿のマザリーニが退出した。枢機卿はちらりとこっちを見ると何事もなかったように去って行った。 「・・・姫殿下。失礼いたします」 ドアを三回ノックしてルイズがドアを開けると、 「ああルイズ、よく来てくれました。私のことを忘れていたらどうしようかと」 「姫殿下を忘れる人間などこのトリスティンにいるはずがございません」 「もう、ルイズ。そういう形式ばった呼び方はよして頂戴。あなたにまでそういう態度を取られると悲しくなってしまいます」 「・・・わかりました、姫さま。しかし一体どうしたのですが? 私を及びつけになるなんて」 もしかして私に何か任務を? などとルイズが考えてると 「・・・ルイズ!・・・ひっく、私、私は・・・・」 アンリエッタはルイズの肩を掴んで泣き出したのだった。 「ルイズ、あなたは知らないかもしれないけど、私は・・・アンリエッタはウェールズ様を愛しておりました」 「・・・・・・」 知っていました、といおうとしてルイズはやめた。無粋だと感じたからだ。 「昔よくあなたに影武者をしてもらいましたよね。告白するとあの時私はあの方に会いに行っておりました」 「・・・そうでしたか」 「あの方はいつも私の告白をはぐらかしました・・・そうですよね、私とあの方は所詮・・・」 ひっく、うっくと再びアンリエッタは嗚咽を漏らす。 「今日、ウェールズ様が亡くなったと連絡を受けました」 「・・・・・・・・・」 「事故死だそうです。もとよりあの方は国と命を共にするつもりだとは分かっておりました。覚悟もできてました。 ですが・・・やはり事実を受け止めるのは辛い・・・辛いのです」 「姫さま、好きなだけお泣きなさい。今日だけは・・・今だけは始祖ブリミルをお許しになりましょう」 「ルイズ・・・・・・ルイズゥ~~~~~~~」 アンリエッタは子供のように泣きじゃくった。今まで姫と言う立場上泣けなかった分。ただひたすらに。 それこそ涙を流しすぎて眼がベコベコにならないか心配な位に。 それから一時間ほどしただろうか。泣き疲れたアンリエッタをベットに寝かせ、ルイズは部屋を退出した。 「ミス・ヴァリエール殿」 扉の横には枢機卿マザリー二が立っていた。 「城門までお送りいたします」 「そんな、わざわざ枢機卿様が・・・」 「遠慮なさらずに。どうぞ」 しばらく二人で廊下を歩いていると 「ありがとうございます」 「え?」 「殿下がああやって自分を包み隠さずぶつけれるのはあなたぐらいです。ほんとうにありがとうございました」 「いえ、そんな・・・」 「殿下は今朝ウェールズ皇太子の訃報を聞き、大変ショックを受けておられました。 それこそこのまま気が触れてしまわないか不安なくらいに」 「・・・・・・ウェールズ皇太子は本当に事故死なのですか?」 「アルビオンに潜ませている間者からはそう報告を受けておりますしアルビオン王国からも正式に報告を頂きました」 「・・・そうですか」 「しかし・・・いくつか腑に落ちぬ点はございますがな」 「腑に落ちぬ点?」 思わずルイズは聞き返した。マザリーニはしまったという顔をする。 しかしマザリーニはアンリエッタには絶対に言わない、という条件をつけて話を続けた。 「ウェールズ皇太子が発見されたのは深夜、玉座の間だそうです」 「玉座?」 「最初に発見したのは城の侍従。何かが倒れるような大きな音を聞いて玉座に向かったところそこには」 「ウェールズ皇太子が倒れていた・・・と」 「はい・・・もっとも最初はそれがウェールズ皇太子様だとは分からなかったそうです。 なにせ遺体は巨大な岩に押しつぶされもはや原型を留めていなかったそうですから」 想像してルイズは口にすっぱいものが広がる。王族の死に様にしては酷い部類だろう。 「なぜ深夜に皇太子が玉座にいたのか、また彼を押しつぶした岩石はどこか落ちてきたものか当はまだ何も分かっておりません」 「・・・つまり事故死でない可能性もあり得ると?」 「穿った見方をすればそうなりますな。自殺か他殺か・・・どちらにせよトリスティンとしては渡りに船ですが。 姫にはとても言えませんがな」 「渡りに船? どうしてです、アルビオンが滅べば今度はこのトリスティンが」 「アルビオンはもうレコンキスタに降伏いたしました」 「!」 ルイズの目は驚愕で見開かれる。 アルビオンが降伏? こんなに早く? 「自分たちの主人の凄惨な死に様を見てどうやら残った王族や貴族連中は完全に戦意を喪失されたようで。 これも先ほどアルビオン新政府から連絡を受けました」 「それなら尚更危険じゃないですか!」 「それが外交の不思議なところでしてな。皆殺しなら早く済むことも降伏されると面倒になるのですよ」 相手が最後まで降伏しなければ殲滅の後新政府を樹立し外交なり戦争なりへ進めることができる。 しかし降伏された場合樹立と外交、戦争の間に裁判というものが割って入る形になる。 無論人権など無視して皆処刑してしまえば大して変わらないだろうが、そうなれば外交の道はなくなる。 降伏した相手を皆殺しにする連中が和平を申し込んできても信用できるわけがない。 戦争するにも今の状態でトリスティンゲルマニアを敵に回すのが圧倒的不利になる。 結局正式に裁き、他国の信用を得る必要があるのだ。 「っと、つきましたな。・・・くれぐれもさっきの話はご内密に。いやはや、どうにも今回の件腑に落ちぬ件が多すぎて 私もいろいろと鬱憤が溜まっておりましてな。お許しを」 「いえ、枢機卿様。いろいろと貴重なお話をありがとうございます。姫さまのことよろしくお願いします」 「心得ております。ところで・・・」 マザリーニは足元を指差していった。 「それは、あなたの使い魔ですかな」 ルイズの足元にはいつのまにかローリングストーンが転がっていた。 「きゃっ! あんた見ないと思ったら・・・もう帰るんだからじっとしてなさいよ」 「やはり使い魔でしたか」 「申し訳ございません! なにぶん昨日契約したものでまだ躾が済んでおりませんので・・・」 「ふむ・・・」 マザリーニはじろじろと岩を眺める。が、すぐにルイズに向き直った。 「いえいえ、使い魔なら構いませぬ。魔法学園までは馬車を準備してますのでお気をつけて」 ルイズの乗った馬車を見送りながらマザリーニはさっきに岩について考えた。 似てるのだ。今日報告のあったウェールズを押しつぶした岩石と特徴が。 昨日契約したという話だしまぁ偶然だろう。 そう思い城へと戻ろうとしたマザリーニはあることに気づく。 「はて? ルイズ殿は使い魔を馬車に乗せられたのだったか?」 振り向くと岩はどこにもなかった。いつの間に・・・と思ったがマザリーニはそれ以上考えるのをやめた。 ルイズは学園に戻ると礼拝堂に向かった。 せめてウェールズ皇太子に冥福を祈ろうと思ったからだ。 「・・・・・・・・・」 ルイズは手を組み瞑想する。今日はいろいろあった。 しかし・・・ウェールズは本当に事故死なのだろうか? マザリーニの話を聞いたルイズは彼の死に疑問を持った。 ウェールズには彼女も何度かあったことはあるが、彼は貴族の、王族の鏡のような人だった。 決して国民を捨てて死を選ぶような人ではない。 だとすれば・・・やはり。 「・・・・・・・・・彼は運命を受け入れただけです。『死』は彼のすぐ側までやってきていた。 だから彼はその運命を受け入れたのです」 「!!」 誰もいない礼拝堂から声が響く。 いや、いないわけではなかった。暗い礼拝堂の奥に誰かがいた。 「人は運命には逆らえない・・・彼も私も・・・無論君もね」
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3話 朝である。 窓から差し込む光の量でそれを察知したホワイトスネイクは自分自身を「発動」させた。 言い換えれば「起きた」ということだ。 本来ならスタンド使いがスタンド使いの意思で発動させるものなのだが、 本体の役割を果たすルイズと視覚聴覚の共有はおろかダメージの共有さえ無いという状況である。 スタンド能力に関するあれこれは全てホワイトスネイクに一任されているようだ。 そしてホワイトスネイクは自分のご主人様(ルイズ曰く)たるルイズを見る。 ルイズは実にあどけない面で寝ていた。 「わたしのぉ~、ひっさつまほうで~ぇ・・・」 しかもよく分からない夢を堪能しているようだ。 とりあえず朝だから起こすべきだろう、と考えたホワイトスネイクは、 ぐっすり寝ているルイズの毛布を遠慮のカケラも無くばさりと剥いだ。 「な、なによ! なにごと!」 「朝ダ」 「はえ? そ、そう……って、ひゃあっ! だ、誰よあんた!」 寝ぼけた声で怒鳴るルイズ。 まだ夢から覚めきっていないらしい。 ホワイトスネイクはため息混じりに、 「『ホワイトスネイク』ダ、オ嬢サン」 「ああ……わたしの使い魔の、ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 ルイズは起き上がるとあくびをして、う~んと伸びをすると、 「ってちょっと待ちなさい! あんた、一体どこから入ってきたの!? 昨日確か締め出したはずよ!」 「私ニトッテ物理的ナ障害ハ意味ヲ成サナイ。壁ヤドアヲスリ抜ケルグライ、簡単ナモノダ」 「ウソ……あんた、何者なの? 幽霊?」 「幽霊、カ。ソレガ一番近イカモシレナイナ 背後霊ト言イ換エテモイイ」 背後霊、という言葉にルイズが少し青ざめる。 本当に、こいつは一体何なのだろうか。 昨日は蹴っ飛ばすことができたから実体はある。 人間みたいに話すことも出来る。 昨日脚を触られたときには体温みたいなものも感じた。 でも……壁をすり抜けたりもできる。 空を飛んだりもしていた。 一体、こいつは何なんだろう。 得体の知れないホワイトスネイクに、ルイズはちょっぴり気味の悪いものを感じた。 とそのとき、ルイズはふとあることを思い出した。 「洗濯は? あんたにやらせるつもりで忘れないようにするために書き置きしといたんだけど……」 「昨日ノ晩ノウチニ済マセタ」 へえ、中々優秀じゃない、と気をよくしたルイズ。 さしずめ「使い魔がしっかり言うことを聞くのがとても気分がいいッ!」と言ったところか。 もっとも、ホワイトスネイクがお隣の赤毛の女にその洗濯をやらせていた事実などルイズには知りようも無い。 そして気をよくしたところでルイズは、 「服」 と、ホワイトスネイクに命じた。 つまり服を取って来いということである。 ホワイトスネイクはふわりと空を蹴って移動し、椅子にかかった制服を掴むと、 またふわりと空中を移動して未だベッドの上にいるルイズに戻ってきた。 ルイズはだるそうに着ていたネグリジェを脱ぎ始める。 下着は昨日の晩に脱ぎ捨てたので、ネグリジェが無くなったらルイズは文字通りの全裸である。 健全な男の子が見たら鼻血を出すこと請け合いの光景だったが、ホワイトスネイクはそれを興味なさそうに見ていた。 「下着とって」 「ドコニアルンダ?」 「そこのクローゼットの一番下の引き出し」 またホワイトスネイクは空中を移動して音も無くクローゼットの前に着地する。 そしてクローゼットを開け、適当にその中から下着を選び出すと、 それを持ってまたルイズのところに戻ってきた。 ルイズはホワイトスネイクから受け取った下着を身に着けると、 「服」 「着セロ、トイウコトカ?」 「そうよ」 こんな使い方をされるのは本当に不本意だ、とホワイトスネイクは思った。 どうせなら戦いとか、記憶を奪うとか、そういうことに使って欲しい。 こんな仕事ならヨーヨーマッでも出来るんだから。 だが心の中で愚痴っていても仕方がないので、仕方なくルイズに服を着せる作業をした。 もちろん、その不満を表に表すようなことはしない。 こうして着替えを終えたルイズとホワイトスネイクが部屋から出ようとしたところ、 「あ、あとわたしのことを『お嬢さん』って呼ぶのはやめなさい。 なんだか見下されてるような感じがしてイヤなのよ。 それにあたしにはルイズって名前があるんだから。」 「デハ、『ルイズ』ト呼ベバイイノカ?」 「ダメよ、ご主人様に向かって呼び捨てなんて」 「ソウカ。ナラ……『マスター』トデモ?」 「マスター……か。うん、それでいいわ」 こうしてルイズは、ホワイトスネイクから「マスター」と呼ばれることになった。 さて、部屋から出たルイズとホワイトスネイク。 いざ食堂へ――向かおうとしたところ、廊下に3つ並んだドアのうちの一つが開いた。 そこから出てきたのは、ホワイトスネイクが昨日洗濯関係で世話になった赤毛の女だった。 女の背はルイズより高く、むせるような色気を放っている。 そして顔の彫りは深く、突き出たバストがなまめかしい。 しかもブラウスのボタンを2番目まで開けているので谷間が丸見えである。 そして昨日は夜だったこともあってホワイトスネイクは気づかなかったが、女の肌は褐色だった。 女はルイズのほうを見ると、にやっと笑って、 「おはよう、ルイズ」 と挨拶した。 それに対してルイズはあからさまに嫌そうな顔をして、 「おはよう、キュルケ」 と返した。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケはホワイトスネイクを指差して言う。 「そうよ」 そうルイズが返すと、キュルケは値踏みするようにホワイトスネイクをじろじろ見て、 「ふ~ん……本当に亜人なのね。 それに、昨日は杖も詠唱も無しで空を飛べてたみたいだし。 エルフの親戚なのかしら。 ま、『ゼロ』のルイズにしては、上出来じゃないの?」 一応褒めてはいるようだが、それでもかなり見下した口調でそう言った。 「ふーんだ。いいのよ、成功したんだから。それに、そう言うあんたの使い魔は何なのよ?」 「あ~ら、見たいの? 言われなくたって見せてあげるつもりだったけど……フレイム~」 キュルケが自分の使い魔の名前を呼ぶ。 すると彼女の部屋から、のっそりと、真っ赤で馬鹿でかいトカゲが現れた。 いうまでも無く昨日ホワイトスネイクがDISCをぶっ刺したトカゲである。 そしてルイズの部屋の前の廊下がむんとした熱気に包まれる。 「熱ヲ放ッテイルノカ? コノスタンドハ」 「そりゃそうよ。だってフレイムはサラマンダーなんだもの。 …っていうか、『スタンド』って何よ?」 「イヤ、ナンデモ無イ」 (テッキリスタンドノヴィジョンデハ、ト思ッタガ…ソウイウ生キ物ナノカ。 私ハトンデモナイ所ヘ来テシマッタノカモシレンナ) 昨日の推測が誤りであったことを理解すると同時に、 この世界のブッ飛び具合を改めて理解したホワイトスネイクであった 「それにフレイムはただのサラマンダーじゃないわ。 見てよ、この尻尾! ここまで大きくて鮮やかな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よぉー? 好事家に見せたら、きっと値段なんかつかないわ!」 「そう、それはよかったわね」 得意げに胸を張るキュルケに対し、ルイズも負けじと胸を張り返すべく―― 「ホワイトスネイク、あんた何が出来るのよ?」 「何ガ出来ルカ……カ」 ホワイトスネイクは考えた。 昨日は誰も見ていないからこそ堂々と能力を行使したが、今は目の前に赤毛の女がいる。 ルイズに見られるのはいいとして……この女に手の内を晒していいものだろうか? そんなことを考えた結果―― 「別ニ大シタコトガ出来ルワケデハナイ」 あえてウソをついた。 「セイゼイ出来ルノハ、空中ヲ飛ブヨウニ移動シタリスルグライナモノダ」 「なあんだ、じゃあ見かけ倒しって事じゃない。 やっぱりあなたにお似合いの使い魔だったわね、ルイズ」 「う、うるさいわよ!」 ムキになって言い返すルイズ。 だがキュルケは余裕の表情でそれを見下ろして、 「じゃあ、お先に失礼」 そう言うとフレイムを従えてさっさと行ってしまった。 「くやしー! なんなのよあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚できたからってエラソーに!」 「ソノ『火竜山脈のサラマンダー』トヤラガ召喚デキルト何カイイ事デモアルノカ?」 「大有りよ! 使い魔は主人の実力を示すものなの。 だから火竜山脈のサラマンダーを召喚できたキュルケにはそれだけの実力が……ってああもう! 考えるだけで腹が立ってくるわ!」 「『使い魔は主人の実力を示す』……カ。ナラ君ノ実力モ捨テタモノデハナイナ」 「どういうことよ!」 ホワイトスネイクの言葉の意味が分からなかったルイズはすぐに聞き返す。 すると、 「私ハ少ナクトモアノ化ケ物トカゲヨリハ強イ」 「…ウソでしょ?」 「本当ダ。機会ガアレバ実力ノ一ツデモ見セテヤル」 「でもあんた、さっき『特別な事は何も出来ない』とか言ってたじゃない」 「アレハ方便ダ」 「方便?」 「私ハサッキ、自分ノ能力ヲ明カサナイタメニ『アエテ』ウソヲツイタ。 ……アノ女相手ニワザワザ手ノ内ヲ明カス必要ハ無イカラナ」 余裕のある口ぶりで言うホワイトスネイク。 だが昨日召喚したばかりの使い魔にいきなりそんな事を言われても、ルイズには信じられるわけが無い。 でも、そういえば今朝扉をすり抜けた事はキュルケには言わなかったし……。 本当のところはどうなのだろうか、と悩んだルイズは、 「じゃあ教えてよ。あんたが一体、何が出来るのか」 と聞いた。 実にストレートである。 そしてそれを聞いたホワイトスネイクはニヤリと笑うと、 「一ツハ命令スルコト。 一ツハ幻ヲ見セルコト。 そして一ツハ――」 「記憶ヲ奪ウコトダ」 「……どういうことよ? 分かるように説明しなさい」 残念ながら我らがご主人様には理解されなかった。 むしろ混乱しているようである。 ホワイトスネイクはそんな自分の主人を見て、 「分カラナイノナラ……実際ニ私ガ使ウ所ヲ見ルトイイ。近イウチニ3ツ見セヨウ」 そういって、自分を『解除』した。 とは言ってもルイズにとっては初めてみる光景だったので、 ホワイトスネイクが煙のように消えてしまったことにかなり焦った。 「え? ち、ちょっと……え? 消えちゃったの? ……え? どういうこと?」 「落チ着ケ、マスター」 そう言って首から上だけで現れるホワイトスネイク。 ホワイトスネイクからすれば全身を出すのが面倒くさかったからこそなのだが―― 「っっっっっっっ!!!!!!!!」 自分の使い魔がいきなり生首になって現れる光景は、 年頃の少女には、ショッキングすぎた。 そして朝食の席にルイズとホワイトスネイクが到着したとき―― ルイズの両目はほんのちょっぴり涙で潤んでおり、 ホワイトスネイクは全身からプスプスと黒い煙を上げていた。 例の爆発を食らったためだ。 もちろんコスチュームもボロボロである。 「……いいこと。今度ご主人様を怖がらせるようなことしたら、またオシオキだからね」 「……了解シタ、マスター」 さて、ここ「アルヴィーズの食堂」には、ゆうに100人は食事を取れるであろう程に長い机と、 その上に所狭しと並べられた豪華な料理と豪華な飾り付けがあった。 「中々豪華ナ食卓ダナ」 「トリステイン魔法学校で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 食堂の絢爛っぷりに感心したように言うホワイトスネイクに、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「メイジはほぼ全員が貴族なの。 だから私たちが貴族としての教育を受け、貴族としての礼儀作法を学ぶために、 貴族にとって相応しい食卓がこうして用意されてるってわけ。分かった?」 「ナルホドナ。……デ、ソコニ置イテアルノハ何ダ?」 ホワイトスネイクが床を指し示す。 そこには小さな肉の欠片がぽつんと浮かんだ貧しいスープと、あからさまに硬そうなパンが並べられている。 「あんたが食べるものよ。まさか、貴族と同じ食卓に座れると思ってたの?」 ルイズが呆れたように言う。 それに対してホワイトスネイクはさらに呆れたように、 「私ハ生物デハナイカラ、食事ナンテ取ラナインダガナ……」 こう言った。 「えっ……あんた、生き物じゃないの? っていうか、それってどういうこと?」 「コレハ私ノ推測ダガ、私ハマスターノ精神ニ『寄生』シ、ソコカラ常ニエネルギーヲモラッテイルノダ」 「き、寄生!? そ、それって、何か危なかったりしないの!?」 「ソウイウ心配ハ今ノトコロ見当タラナイカラ安心シテイイ。 アト…ソウダナ。 私ハ力の『イメージ』とか『ヴィジョン』ニスギナイカラ、腹ガ減ルコトモナイ。 ……ソウイエバコノ事ヲ伝エルノヲ忘レテイタ気ガスルガ、 マスターノ方モコンナ食事ヲ私ニトラセルツモリダッタノダカラ堪エテクレ」 淡々とルイズに説明するホワイトスネイク。 しかしルイズにとってはそれが分かったような分からないような説明であったことと、 「使い魔への教育」の名目で貧相な食事を取らせる目論見が見事に外れたこととで、 ルイズはぽかーんとしていた。 そのとき、そんなルイズをクスクス笑う周囲の生徒達の口から「ゼロ」という単語が出てきたのをホワイトスネイクは聞いた。 確か食堂に来る前に見た女……キュルケもルイズに向かって「ゼロ」とか言っていた。 一体どういう意味なのだろうか、と考えていたところで、 昨日、ルイズが魔法を使えないと推測したことを思い出した。 (魔法ガ使エナイ者ノ事ヲ『ゼロ』ト言ウノカ? ソレトモマスター個人ノ事ヲ指シテ『ゼロ』ト呼ブノカ…? イズレニシテモ、マスターヘノ侮辱デアルコトニ変ワリハナイダロウナ…) そんなことを考えながら、ホワイトスネイクは不機嫌そうに食事を取るルイズを見下ろしていた。 To Be Continued...
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味も見ておく使い魔-3 ルイズは顔のデッサンを狂わせた露伴を連れて大学の講義室のような部屋に向かった。 次の魔法の授業はそこで行われるのだ。 ルイズと露伴が中にはいって行くと、先に教室にいた生徒たちが一斉に振り向いた。 そして露伴の顔を見て唖然とする。 その中にブチャラティもいた。周りを女子が取り囲んでいる。キュルケもいた。 皆、目から『恋する乙女ビーム』をブチャラティに発射している。 (さすがブチャラティ!普通の平民にできないことを平然とやってのける!) (そこにシビれる!あこがれるゥ!) 「む、すまないがみんな。ルイズがきた。オレは彼女のところに行かなくちゃあならない」 「あ、あんたなに…」 ルイズの発言は別の男子生徒の絶叫で打ち切られた。 「たかが平民のくせして!僕のモンモランシーに手を出すな!」 「ギーシュ、おまえモンモランシーと付き合っていたのか?」 「君はケティと付き合ってたんじゃなかったのか?」 教室内が騒然となる。 「君に『決闘』を申し込む!場所はヴェストリの広場!時間はこの授業のあとだ!」 「別に私はあなたのものになった覚えはないわ」 「いいぞ!生意気な平民をブッチめてやれ!」 「ギーシュ!あなた大人気なくてよ?」 「僕の(脳内の)彼女をとられた恨みを晴らしてくれギーシュ!」 唖然としているルイズを除いて、教室内にいる人の行動は見事に3つに分かれていた。 女子生徒のほぼ全員はブチャラティを擁護する。 男子生徒のすべては半ベソをかきながらギーシュを煽り立てる。 そして約一名、スケッチしている。 この『サバイバー』が発動したような混乱は、教師のミセス・シュヴィールズが教室に入り、生徒全員の口に赤土の粘土が押し付けられるまで続いた。 「今は失われた系統である『虚無』をあわせて、全部で五つの系統があることは皆さんも知ってのとおりです…」 ミセス・シュヴィールズの講義が続く。ルイズの使い魔たちは近くの床に座って興味深そうに話を聞いている。 ルイズは、使い魔に椅子に座らせるつもりはなかったし、そもそも学生用の椅子では小さすぎて、この二人の体格では座れないのだ。 ルイズはブチャラティのことが気になって、講義が耳に入っていなかった。 (なによ、キュルケなんかといちゃついて!こいつ私の使い魔って自覚があるのかしら?) (それにメイジと決闘?平民が?怪我じゃすまないわ!) 「ねえ、ブチャラティ。あなた決闘を受けるつもり?」 自分の使い魔に小声で話しかける。 「そのつもりだが?受けなけれは収拾がつかないだろう」 「それよりもだ。君にひとつ質問がある。 メイジには得意な魔法を冠した二つ名をつけるそうじゃないか。 キュルケは火の『微熱』、シュヴィールズは土の『赤土』だそうだが、君の『ゼロ』というのはいったいなんだ? キュルケ達に聞いても笑ってごまかされてしまった。」 「なんだっていいでしょう!」 講義中に叫んだので、ルイズは先生に見咎められてしまった。 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「おしゃべりする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」 「え?わたし?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 「わかりました。やります」 「ルイズ。やめて」 ルイズは、蒼白な顔で懇願するキュルケを無視して立ち上がる。 そして緊張した顔で、つかつかと教室の前へ歩いていった。 「君、これは好意で言っておくが、命が惜しいなら何か物陰に隠れたほうがいいぞ」 ロハンが机の下に隠れながら話しかけてきた。 よく見ると、他の生徒も椅子や机の下に隠れている。 「どういうことだ?」 その瞬間、教壇からすさまじい爆風が破片とともに襲ってきた。 「おおおおお!」 「も、ものすごい破片飛沫の広がりとその爆発のスピード!」 「床に伏せるか!」 「それとも飛んでよけるか!」 「だめだ!どうしても広がり飛んでくる破片のどれかに当たってしまう!」 「これしかない!」 『スティッキィ・フィンガーズ!』 服についたほホコリを掃いながらブチャラティはつぶやいた。 「つまり、彼女は魔法成功率が『ゼロ』だから『ゼロのルイズ』と呼ばれているわけか…」 「悪いことを聞いてしまったな…」 岸辺露伴はこの惨状を冷静に観察していた。 ルイズの爆発の被害は、その規模と比べて小さなものにとどまった。 ブチャラティは無傷。 爆心地にいたルイズも、服はボロボロだがなぜか無傷。 ミセス・シュヴィールズは倒れているが、 ピクピクと痙攣しているから死んではいないだろう。 そのほかの被害は、教室が『靴のムカデ屋』が爆発したように滅茶苦茶になっているほかは、ガラガラ声の小太りなメイジが一名、脳を半分シェイクされた程度で済んだ。 先生が気絶しているので、授業は必然的にお開きとなっている。 ブチャラティと生徒達はぞろぞろと部屋の外に向かっている。 おそらく『決闘』を見物しに行くのだろう。 「ロハン、あなたはここをきれいにしておいて」 ルイズがあせったように話しかけてくる。事実あせっているようだ。 「ここの掃除は君自身がすべきじゃないのか?」 「それはそうだけど!私はブチャラティを止めてくる!このままじゃ彼殺されてしまうわ!」 そういい捨てて、もうすでに姿の見えないブチャラティを追いかけていった。 「僕も『決闘』を見たいんだがな…」 掃除をするか、無視して見物にいくか考えていると、誰かに右腕の袖をつかまれていた。 「ん?なんだ?」 振り返ると、青い髪の少女がいた。 「手伝う…」 「手伝ってくれるのはありがたいが、『決闘』は見なくていいのか?」 「『決闘』に興味はない」 「それよりもあなたはしばみ草を『イケる』といった」 「だから、仲間」 手を差し出してくる 「あ、ありがとう…」 そういいながら僕は彼女と固い握手を交わした。 To Be Continued... 戻る 味も見ておく使い魔-2に戻る
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「ハァ……ハァ……ハァ……」 ルイズは馬に乗って森を駆け抜ける。 「もう…どこいったのよ…」 彼女は巨体の使い魔を探す。 「そもそも、あいつモット伯の屋敷の場所知らないでしょうに……」 口に出してから、気づく。 「そうよ!あいつはモット伯の屋敷の場所を知らないのよ!飛び出していったはいいいけど、方角も距離も知らないはずだわ!なーにが 『我々の知力』よ!穴だらけのザルじゃない!一応あてがないから念のために屋敷に行って、そこに居なかったら帰るしかないわね」 そして、森が開け、モット伯の屋敷が見えてくる。 屋敷を囲む塀の向かいの茂みに一人の大男が潜んでいた。 彼の使い魔であった。 「ちょっとぉおおッ!なんであんたいるのよ!」 「モット伯とやらの家に向かうといったはずだ、脳みそがクソになったのか?」 ルイズは混乱する。 「あ、あんた異世界から来たんじゃなかったの?なんでモット伯の屋敷の場所がわかったのよ?」 ワムウは平然と答える。 「シエスタは『もうすぐ貴族の方の家に専属で勤める』『残り数日間はここで生活ができる』と言っていた。もうすぐと言っているんだから 行くのが5日以上はないだろうが、数日間という言い方からには少なくとも3日か4日はここに居るという印象を受ける。つまり馬車で1日ないし 数時間といったところだろう。こちらの馬の速度が俺の世界とほぼ同じだというのは数日前に俺の体で調べさせていたからな。まあ、俺の足で 1時間ちょっとしかかからない程近いとは思わなかったがな。方角はお前の部屋にある地図を見れば、王宮が北で南西はガリアという他国との国境、 東はゲルマニア国境だ。いくらなんでも勅使がこれ以上王宮から離れるということはあるまい。したがって北に向かって歩いていたら大きな屋敷に 『モット屋敷』などという悪趣味な看板があったんでな、小さな『赤石』を探すよりはわけがなかった」 ルイズは目が点になる。 「あんた、異世界から来た亜人だってのに地図の文字が読めるって言うの?」 「我々の能力をなめるな。文字や言葉など数時間ほどでほぼ完全に習得できる」 ルイズは呆然として、ため息をつく。 「あんたって、ほんと化け物ね……肉体面でも精神面でも…」 「ではその化け物から忠告だ。これから化け物じみたことをやるから貴様のような普通の人間は足手まといだ、帰ってくれ」 足手まといだと言われ、ルイズは激昂する。 「ヴァリエール家三女のメイジが普通の人間だっていうの!やっぱり私が魔法使えないからなの?爆発だけでも手助けくらいできるわよ!」 「違う。多少土人形やら火やら出せたところで同じだというのだ。俺は足手まといを抱えながら暗殺するほど器用ではない。 それに俺のプロテクターの定員は一人だ。ついて来られて侵入がバレては元も子もないし、バレずに済む方法は思いつかん。 それとも、お前がその方法を思いついたって言うのか?」 ルイズは唸る。 「じゃ、じゃあ私が正面で爆発を起こして陽動してる隙にあんたが裏口から入り込むとか…」 「論外だ。お前が勅使など殺したら死刑だと言ったんだ、誰かが殺したと思われては困る。それに、兵士の追撃をかわしきれるのか?」 ルイズは黙る。 「とにかくだ、帰って貰おうか。できれば物音を立てずにな」 ワムウは立ち上がり、姿を消した。 * * * ノックに主人は気づき、返事をする 「誰だね?」 一人の兵士が入る。 「衛兵のフウガです。あの、前門を23時まで見張るはずの同僚のライガが見当たらないのですが、行き先をご存知でしょうか?」 彼は後ろ手で自分の入ってきた扉を閉めた。 「知らんな、まあ十中八九脱走だろう。そんなやつはごまんといる、一々騒ぐんじゃない」 「しかし、彼とはこちらで数年一緒に勤めており、そんな奴じゃないはずな…うがッ!」 モット伯は目を見開いた。 こんなことは禁制の薬、厳罰の器具、裏世界の禁術を数多見てきたが、彼はこんな自体をあらわせる言葉を知らなかったッ! 先ほどまで、平然と自分と話をしていたはずの一人の兵士の背中から首が生え、胴体が体の外に表れ、腕を出し、足を出していった。 何より恐ろしいのはッ!その男が全ての体を見せてきたときには!その兵士は跡形もなくなっていたのだ! その男には、手首がなかった。 モット伯はガタガタと奮えながらもその男に話した。 「お、お前は何者だ!先ほどの兵士はどこにいったんだ!」 「食べさせてもらった。人間に潜行するなんて、4000年ぶりだろうか」 彼は舌なめずりでもするかのように、周りを眺めながら淡々と述べた。 モット伯は腰を抜かし、後ろに倒れる。 「Wake me up!だ、だれかッむぐッ!」 モット伯ののどに手首が食らいつき、彼は大声をあげることはできなかった。 「切り落とした手首を持ってきていてよかったな、まさか役に立つとはな」 彼はその大男を憎憎しげに見つめる。 モット伯は杖を振った。 「何者だか知らんがトライアングルを舐めるなッ!」 腐ってもトライアングル、腰を抜かした状態でも詠唱を密かに終えていた。 杖先から大男に向かって水柱がワムウに向かって飛んでいく。 しかし、大男は片手でそれを受け止める。水しぶきが天井、床に広がる。 「う、うわぁああああッ!」 モット伯はまだ杖を振る。今度は高熱の蒸気を杖からあの大男に向かって飛ばす。 直撃はした。はずだった。が、大男はものともしない。 「あまり音と時間はかけたくない。とっとと死んでもらおうか」 モット伯はガタガタと奮えている 「あ、あんたは何者なんだ!誰に命令されたんだ!」 とのどに手首が食らいついた状態で出せるだけの声を出す。そして倒れたまま後ずさる。 大男はニヤリと笑って 「お前の命を狙っているものはいくらでもいるだろう」 モット伯は哀願する。 「せ、せめて、冥土の土産にどこの者か教えてくれ」 「だめだな」 すると、モット伯の顔色が変わった。 「教えてくれないのならば、少々痛めつけてさせてもらおうか」 大男の天井から水滴が滴り落ちる。 「『アクア・ネックレス』!」 * * * 風のプロテクターを纏い、見張りの一人を単独のときに殺し(その人間はかけらも残さず食った)、交代に来た人間に潜行する。 数人経由しなければならないか、と思っていたが一人はそのまま主人の部屋に向かってくれた。ありがたい。 主人のモット伯とやらはメイジのようだが、大したことはない。 腰を抜かしたまま叫ぶ。 「あ、あんたは何者なんだ!誰に命令されたんだ!」 「お前の命を狙っているものはいくらでもいるだろう」 直接のかかわりがないだろうルイズですら嫌っていたのだから、殺意のある奴はいくらでもいるだろう。 そいつらと勘違いしてくれれば対処がしやすい。 「せ、せめて、冥土の土産にどこの者か教えてくれ」 奴は哀願してきた。戦士としてもクズであると明言できる。こんな奴には神風嵐を使うまでもない。もっとも片方手首がないため使えないが。 「だめだな」 すると、奴の顔が変わる。 「教えてくれないのならば、少々痛めつけてさせてもらおうか」 天井から水滴が滴り落ちてきた。 「『アクア・ネックレス』!」 落ちてきた水滴は軌道を変え、俺の口の中に飛び込んでくる。 普通の人間ならば、とっさにかわそうとする!しかしワムウは思いっきり拳を奮った! 水滴が吹っ飛ぶ。 しかし、彼はそのあたりをまだ漂っていた『蒸気』にまでは気を払っていなかった。 蒸気はまるで先ほどの水滴のように進路を変え、ワムウの喉へ侵入した。 「NWWWWWWWWW!!」 その蒸気は俺の喉を切り裂いた。 モット伯は叫んだ。 「ビンゴォッ!喉を引きちぎった!」 大男の体はよろめく。 「フハハハハ!口ほどにもない奴め!俺の『水魔法』と『アクア・ネックレス』!これほど相性がいいものがあるだろうかッ!」 モット伯の家柄がいくらよかったと言っても、人望も実力もなければ出世はできない。 彼の人望は皆無ではあった。つまり、実力は折り紙つきであった。表面を取り繕う演技力とその実力だけは認められ、勅使にまで出世したのだ。 彼の『右腕』である能力もその出世を手伝っていたが、どんな汚れ仕事をも果たす胆力と経験こそは彼の『左腕』であった。 が、彼の経験をもってしても、 「MWWW…」 喉をもがれて、 「WRY…」 それでもなお戦いを挑んでくるような生物を知らなかった! 「WRYYYYYYYYYYYY!!!!」 起き上がった勢いによる蹴りがモット伯にヒットし、彼は壁に吹っ飛ぶ。 クリーンヒットとはいえ、苦し紛れの攻撃には違いないため、致命傷にはならない。 が、威力がないゆえにあまり音が立たなかったのは幸運であった。 呻き声をあげて吹っ飛んだモット伯は、着地地点で自分の状況を考える。 (ど、どういうことだ!?奴の喉は確かに切り裂いた…もぎとったはず!実際ここからでもそれが見える!なのに!なのにッ!なぜ奴は 生きているんだ!?俺に蹴りを食らわしてくるんだ?) ワムウは予想外の攻撃に少し立ち止まって考える。 (ふむ…魔法にはこういうものもあるのか、勉強になったがいかんせんパワーが足らなかったようだな) 「うおおおおおッ!『アクア・ネックレス』ッ!!」 ワムウがモット伯に向かって歩き出すと、彼の近くを漂っていた先ほどの蒸気が、実体化し彼の喉に突っ込んでくる。 が、その水蒸気はワムウには届かなかった。 ワムウの姿はゆがんで見えた。 「この『風のプロテクター』は…もっともこの名付け親は俺ではないがな……まあそんなことはどうでもよかろう…… 『風のプロテクター』は俺の肺からの水蒸気を俺の風で操って纏っている…水蒸気が水蒸気と風の壁をつっきることはできまい…」 モット伯はアクア・ネックレスを執拗に忍び込ませようとする。しかし、カッター型にしなければシャボン玉すら通さなかったであろう 風のプロテクターは、水蒸気などを弾くことはわけがなかった。 「ひ、ひぃいいいい!」 モット伯は後ろに後ずさるがもう窓しかない。 ここは屋敷の4階、生身の人間が落ちたら怪我は免れないだろう。 そして、怪我した状態でこの化け物から逃れることは不可能であると悟っていた。 そのために… 「『アクア・ネックレス』!」 彼はそれを自分の付近まで呼び寄せ、窓を開け、それをクッションのようにして飛び降りた。 そして、着地。 「なるほど、そういった使い方もできるのか」 ワムウは窓のさんに立ち、躊躇なく飛び降りる。こちらも問題なく着地。 「さあ、そろそろ諦めるんだな。なかなか楽しかったが、そろそろ終わらせないと困る」 「ふは…ふはははははは!」 モット伯は大きく笑い出した。 「お、俺も幸運に恵まれたようだぜェーーッ!」 モット伯の視線の先にいるのは、ルイズだった。 * * * 「な、なにがおこってるのよ!」 「その水滴を口に入れるなッ!」 モット伯はアクア・ネックレスをルイズの方向に向ける。 いくらワムウが柱の男だからと言って、あの距離ではアクア・ネックレスを止めるのは不可能であった。 「ふひゃはひゃッ!無駄だッ!口以外にも入れるところなんてどこにだってあるぜェーッ!こんな時間に通りすがりの娘がいるわけがない、 そう思っていたがやはり貴様の関係者かッ!お前らは将棋やチェスでいう『詰み』に嵌ったのだーッ!」 モット伯は未だに手首で半分締められている喉を使い叫ぶ。 「よくわかんないけど、こいつから離れればいいのね!ワムウはそいつをやっちゃいなさい!」 ルイズは杖を抜く。 ワムウは一瞥したあと、モット伯に向き直る。 「ただの魔法でどうしようっていうんだ!俺のはただの魔法じゃないんだぜェーッ!」 モット伯は狂ったように叫びつづける。 ルイズは地面に杖を振った。 地面は軽い爆発を起こし、ルイズは後方に吹っ飛ぶ。 「距離は稼いだわよ。これでいいの?」 「ああ、十分だ」 ルイズには、なぜか、ワムウの考えがわかっていた。 「なにが十分だって?その程度の距離でェーーッ!お前だって俺に届く距離じゃ…」 モット伯の心臓が血を吹いた。 「単発式『渾楔颯』」 『烈風のメス』は軽々とモット伯の心臓を貫き、アクア・ネックレスはルイズの手前で墜落した。 ワムウは倒れているモット伯に近づく。 「ふむ…まだ息があるか……」 モット伯は持ち前の水魔法を使って治していたが、それでも意識を保つのが限界、死ぬのは時間の問題であった。 「とどめをささねばならない…だがただ食ってしまうのも惜しい…」 ワムウはつぶやく。 「この俺に単発とはいえ『渾楔颯』まで使わせた貴様には敬意をもってとどめをさしてやろう…手首がないから亜流になるがな…」 左足を関節ごと右回転… 右足を膝の関節ごと左回転… そのふたつの足の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は! まさに歯車的砂嵐の小宇宙!! 「闘技『神砂嵐』!!」 * * * 「…いくら無茶だからって、足手まといっていわれたのに残ってそれで人質になった、なんてことになるくらいなら死んだ方がマシよ」 「あいつの注意がお前に行ったから助かったといえば助かった。まあ、礼くらいは言ってやろう。」 ワムウは馬の横を同じスピードで走りながら話していた。 「…怒らないの?」 「無茶をやったが、結果的に良かった以上は俺からはなにも言えん。だが、あんな上手くいくことは滅多にない。十回に九回は死んでいても おかしくない。あんな無茶をやりつづけるつもりなら、もう少し精進するんだな」 ルイズは下を向いて少し黙ったのち、話題を変える。 「ねえワムウ、なんでモット伯なんかに敬意を払う、なんて言ったのよ。戦いの上でも人質をとったり、能力を隠して奇襲したり、 あんたの言う『戦士』とはほど遠いような戦い方をしてたように思えるんだけど?」 ワムウは振り返りもせず答える。だが、その話には重みがあった。 「戦士とは戦いを侮辱しないもの、と考えている。今回の戦いにはルールなどなかった以上、卑怯呼ばわりする必要はあるまい。 むしろこちらから押しかけていって殺したんだ、どちらかといえば非はこちらにあるな」 「……あんた、わかってるならなんでこんな無茶やるのよ、まったく」 ふー、とルイズはため息をつく。 ルイズが生きてきた中でこんな生死の間をさ迷ったのは初めてだったゆえに、精神的に大分疲れているようだ。 「だが、戦いを侮辱しなかったといったことだけではなく、奴は単純に強かった。この俺にここまでダメージを与えられる奴は今までにもそうは居なかった。 波紋使いでもないのにここまでやられたのは長いこと生きてきたが始めてかもしれんな。その強さに『敬意』を払った。それだけだ」 ルイズは息をすいこむ。 「あんたのいう、『敬意』とかよくわからないけれど……あんたにとって『戦士』は全てだってのは本当のようね…… ゲスだから殺そうと思った相手に敬意を払うとかわけわかんないわよ、まったく」 そして、振り返る。 「そうそうワムウ!寮に戻ったらあの姿を消した『ぷろてくたー』とかについてちゃんと説明するのよ!」 X月Y日付 ゲルマニア新聞――モット伯行方不明事件 屋敷の敷地には小さな穴が空いており、争った形跡があったため、モット伯自身の失踪は考えにくく、殺人、あるいは誘拐と当局は考えていたが モット伯自身の魔法と思われる水魔法以外の魔法が使われた形跡がなく、メイジ殺しの犯行と考えられて捜査を進めていたが、 凶器と行方不明になったモット伯及び2名の死体すら見つからず、当局は昨日、捜査の打ち切りを決めたと発表した。 新しい勅使に就任したアンドリュー・リッジリー氏の会見では…… To Be Continued...
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++第七話 使い魔の決闘①++ 配膳はそう難しい作業ではなかった。 配る作業はシエスタがやってくれるので、花京院は銀のトレイを持って動くだけだ。ただ、上に乗ったケーキだけを落とさなければいい。 シエスタが手際よくケーキを配っていくのを眺めながら花京院は落ち込んでいた。 無神経だった自分への自己嫌悪。 ルイズを傷つけてしまった後悔。 それらがまるで棘のように胸に突き刺さり、花京院を落ち込ませる。 ケーキを配りながらルイズの姿を探してみたが、見つからない。もう部屋に戻ってしまったのだろうか。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつきあっているんだよ!」 やけに大きな声が聞こえ、花京院は顔を向けた。 そこには談笑している貴族たちがいた。 中心となっているのは、ギーシュと呼ばれた金髪の少年だ。フリルのついたシャツを着た、いかにもキザなメイジで、バラをシャツの胸ポケットに挿している。 彼はバラを引き抜くと、自分の顔の前で振った。 「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。このバラのように、多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 花京院は思わず顔をしかめた。 格好をつけているつもりなのか知らないが、度が過ぎている。これではもうナルシストだ。 ……早く終わらせよう。 花京院が側を通り過ぎようとしたとき、ギーシュのポケットから小ビンが落ちた。 今の花京院がただの使い魔として来ていたなら放っておいただろう。しかし、残念なことに今は給仕中だった。 たとえ相手が嫌なやつでも拾ってやるべきだろう。 トレイを絶妙なバランスで維持しながら小ビンを拾った。 「おい、ポケットからビンが落ちたぞ」 声を掛けてみるが、ギーシュは無反応だ。 面倒なので、ギーシュの前のテーブルに小ビンを置いた。 「落し物だ」 ギーシュは苦々しげに花京院を見つめると、その小ビンをそっと横に押しやった。 「これは僕のじゃない」 その声で、ギーシュの友人たちも小ビンの存在に気付いた。 友人の一人が小ビンを取り上げ、検分する。 「おお? この香水は、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「間違いない! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは……お前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」 確信した友人たちは騒ぎ出した。その声の大きさはうるさいぐらいで、花京院は早く離れようと足を速めた。 その時、入れ違いざまに茶色のマントの少女がギーシュの前に立った。 少女は目に涙が溜め、泣き出す直前のような表情で、口を開く。 「ギーシュさま……やはり、ミス・モンモランシーと……」 「ち、違うんだ、ケティ。彼らは勘違いしているだけで、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。 涙をその頬に伝わせながら、 「その香水が何よりの証拠ですわ! さようなら!」 まくし立てるようにそう言い、ケティは走り去っていった。 ギーシュは、頬をさすった。 色々な事情があるもんだな、と思いながら花京院が歩き出そうとすると、その横を今度は金髪の巻き髪の少女が通った。 少女は先ほどのケティと同じようにギーシュの前に立つと、厳しい顔つきでにらみつけた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 弁解をするギーシュの額を冷や汗が一滴伝う。 モンモランシーは腕組みをし、ギーシュを見下ろしていた。 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇るバラのような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」 モンモランシーは何も言わずに、テーブルの上に置かれたワインのビンを掴んだ。 そして、呆けたように固まっているギーシュの頭の上からぼどぼどとかけた。 「うそつき!」 と怒鳴って去っていった。 台風が過ぎ去った直後のように、食堂に束の間沈黙が満ちる。 やがてギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。 「あのレディたちは、バラの存在の意味を理解していないようだ」 そして、芝居がかった仕草で、首を振る。 成り行きを見守っていた花京院の袖を誰かが引いた。 「……カキョーインさん。行きましょう」 「ああ。そうだね」 ギーシュに背を向けて、歩き出そうとしたところで呼び止められた。 「待ちたまえ」 「なんだ」 ギーシュは、椅子の上で身体を回転させると、足を組んだ。そのいちいちキザったらしい仕草に、花京院は頭痛がした。 「君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたせいで、レディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね?」 「おまえとさっきの彼女たちとの間にどんな関係があったのかは知らないが……」 ギーシュに指を突きつける。 「二股かけているお前が悪いんじゃあないのか」 ギーシュの友人たちが吹き出した。 周囲で見ていた人たちも、くすくすと笑いをもらす。 「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」 ギーシュの顔に、さっと赤みがさした。 視線を花京院に定めると、言った。 「いいかい? 給仕君。僕は君が香水のビンを置いたとき、知らないフリをしただろう。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」 「どちらにしても、二股はいずれバレたろう。それと、僕の名前は給仕じゃない」 「ああ、君は……」 ギーシュは馬鹿にするように鼻を鳴らした。 「確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」 ゼロのルイズ、という言葉に花京院は反応した。 ゼロ。それはルイズが魔法を上手く扱えないことを嘲笑った言葉だ。 花京院が傷つけてしまった少女への侮辱だ。 それを彼はあっさり言った。何の迷いも無く、はっきりと悪意を込めて。 平民だ、貴族だということはどうでもいい。貴族が勝手に偉ぶっていようと、花京院には関係のないことだ。 だが、彼女に対する侮辱は許せなかった。 「今、おまえはゼロのルイズと言ったな」 「ああ、言ったとも。魔法を使えないものをそう呼んで何が悪い?」 「そうだな。事実だから悪くない……確かに正論には違いない」 花京院はトレイをシエスタに渡した。 そして、正面からギーシュを睨みつける。 「だが、彼女は僕の主人だ。魔法が使える、使えないの問題じゃあない。僕が彼女の使い魔で、僕の主人が彼女である以上、彼女の侮辱を聞き過ごすわけにはいかないな……」 花京院はギーシュのようにキザな仕草で、小馬鹿にしてみせた。 「たとえ相手が口だけのキザな奴だろうと、だ」 ギーシュは目尻を上げると、花京院をにらみつけた。 お互いの視線がぶつかり合い、一触即発の空気が漂う。 先に言葉を発したのはギーシュだった。 「……よかろう。君に礼儀を教えてやろう」 「どこでやるつもりだ? 僕はどこでも構わない」 「貴族の食卓を平民の血で汚すのはしのびない。ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら、来たまえ」 ギーシュはくるりと身体を反転させ、歩き出した。彼の友人たちもその後に続く。 一人だけはテーブルに残った。花京院を逃がさないために、見張るつもりのようだ。 「さて、早く終わらせようか」 花京院がシエスタからトレイを取り、配り始めようとするが、はさみを握るシエスタの手は震えるだけで、ケーキを掴まない。 不思議に思ってシエスタの顔を覗き込むと、彼女は真っ青になっていた。 手だけでなく、身体全体を震わせながら、シエスタは言った。 「あ、あなた、殺されちゃう……」 「殺される? 僕が?」 「貴族を本気で怒らせたら……」 最後まで言い終えずに、シエスタは走って逃げてしまった。 一人残された花京院は、仕方ないので一人で配ることにした。 多少手間取りながらも全てのケーキを配り、トレイを厨房へ返す。 これで準備は整った。 花京院は一人残ったギーシュの友人に場所を聞き、ヴェストリの広場へと向かった。 To be continued→
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朝食を食べ終えたルイズとジョニィは教室に入った。 石造りの教室にはたくさんの生徒と、様々な使い魔がいた。 生徒たちは二人が教室に入るとゼロがどうとか平民がどうとか言いながら笑い始める。 笑われてるみたいだけど、とジョニィが小声で聞くがルイズは嘲笑を無視するとそのまま席に向かっていった。 「ルイズ。一つ聞きたいんだけど…。なんだい?そのゼロって。朝も呼ばれてたよね?」 「あんたには関係ないわよ」 ルイズは不機嫌な声で答えると席の一つに腰掛けた。ジョニィも黙って隣に座る。 ちょうどそこで扉が開き、中年の女性が入ってきた。 「皆さん。春の使い魔召還は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのが楽しみなのですよ」 そう言いながらジョニィに視線を向ける。 「おやおや、また変わった使い魔を召喚したようですね、ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがジョニィを見てとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ!召喚できないからってそのへんの平民を連れてくるなよ!」 一人の小太りな生徒がゲラゲラと笑いながら立ち上がった。なぜか彼の体には黄金長方形を見ることができない。 「違うわ!きちんと召喚したもの!ミセス・シュヴルーズ!かぜっぴきのマリコルヌに侮辱されました!」 「なんだと!?オレは風上のマリコルヌだ!」 二人が熱くなり始めたところでシュヴルーズは杖を振った。すとん、と二人が席に着き、ついでに笑っていた生徒達の口に粘土が押し付けられる。 まるでスタンド能力だ。ジョニィはあらためて魔法の凄さに感心した。 授業は滞りなく進行した。 内容は系統の説明やクラスなど基礎的なものらしく、ほとんどの生徒達はつまらなさそうに聞いている。 だが元の世界に戻る唯一の手段である魔法を学ばなくてはいけないジョニィは真剣に授業を聞いていた。 魔法初心者の彼にとって授業が基礎から始まるのはありがたかった。 シュヴルーズは『土』系統の魔法を教えるらしく、さっきから何度も『土』系統の魔法の重要さを説明している。 あまりの必死さに生徒達は若干引いているのだが。空気読めよ。 授業が進み、いよいよ実践となったところで唐突にルイズが話しかけてきた。 「ジョニィ。あんた…魔法も使えないのにそんな真剣に聞いてどうするのよ」 「だから言っただろ。僕には帰ってやらなきゃいけないことがある。そのためには魔法でもなんでも学んでやるさ」 「あのねえ…帰る方法なんてないって言ったじゃない。それに…」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」 そんな風に喋っているとシュヴルーズに見咎められてしまった。 「は、はい!すいません…」 「お喋りするほど余裕があるのなら、『錬金』はあなたにやってもらいましょう」 シュヴルーズがそう言って机の上の石ころを指差した瞬間、教室の空気が変わった。 真っ先にキュルケが立ち上がり反対する。 「先生!危険です!」 「なぜです?失敗を恐れていては何もできませんよ」 他の生徒達からも続々と反対の意見が上がるがシュヴルーズはまったく聞く耳を持たない。 一方、ルイズはこれはチャンスだと思った。 どうもジョニィは使い魔としての自覚がないらしい。 自分に対する尊敬とかそういう気持ちが微塵も感じられない。タメ口だし。 そんな彼がさっきから一所懸命魔法を学んでいるのだ。 ここで一つ魔法でいいところを見せればジョニィも見直すことだろう。 (この先100年間は二度と挑んで来たいと思わせないようにご主人様との力の差を見せてあげるわッ!) 「やります」 そう言ってルイズは立ち上がり、颯爽と教室の前へ歩いていく。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 にこっと笑いかけるシュヴルーズに頷くと一呼吸置いてから呪文を唱える。 「承太郎さん!あなたの『スタープラチナ』だ!」 「まずいぜ…!もう少しだけ離れねーと…!」 「『魔法』を使わせるなーーッ!!」 「いいや限界だ!隠れるね!『今だッ』!」 「射程距離5メルトに到達しています!S・H・I・T!」 生徒たちが一斉に慌て始める。 ジョニィはルイズの実力を見るいい機会だと呑気に見ていたが、前の席の生徒が机の下に隠れるのを見てイヤな予感がした。 何かヤバイと思った瞬間、教室が光に包まれたのだ! 「うおおッ!?ジャイロォォーー!?石ころが「爆発」したッ!?」 ジョニィはルイズがなぜ「ゼロ」なのかをやっと理解したのだった。 めちゃくちゃになった教室の片付けが終わったのは昼休みの前だった。 罰としてルイズ一人で片付けを命じられてしまったため時間がかかってしまったのである。 もちろんジョニィも手伝った───というかほとんどジョニィがやったと言ってもいいだろう。 新しい窓ガラスを手配したのもジョニィだし煤だらけの教室にモップをかけたのもジョニィだ。 ルイズは教室の隅でいじけてただけみたいなもんである。 「ルイズ…僕のほうは終わったんだが」 「………」 無言。気まずい。 どうしたものかとジョニィがしばらく悩んでいるとルイズが口を開いた。 「…あたしがなんでゼロかあんたにもわかったでしょ」 そう呟いた。明らかに落ち込んでいた。 そしてなぜかその姿には見覚えがあった。 ───いいところを見せるどころか恥を晒してしまった。 きっとゼロの意味を知ってジョニィもわたしを嘲り笑う。 そして見捨てる。役立たずと。誰からも認められない「ゼロのルイズ」と。 そう思うと悔しくて泣きたくなってきた。 そしてついジョニィにキツく当たってしまう。 「まあ、君の実力はだいたい解ったよ。あの爆発の威力はスゴかった」 「…言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ!笑いたいなら笑いなさい!」 「…?ハッキリ言ってるじゃないか。君の実力もゼロの理由も理解した。別に僕は笑ってないだろ」 ゼロという言葉に反応してルイズはキッとジョニィを睨みつける。 「そう言って…きっと心の中では笑ってる!どんなに努力しても誰からも認めらない! 誰からも見捨てられる!わたしを「ゼロのルイズ」だって!」 ルイズは半分涙声になりながら続けた。 そこでジョニィははっとした。 先ほどルイズに見た誰かの姿は───僕だ。 魔法が使えないせいで誰からも認められない、そう言って一人ぼっちでいるルイズの姿は 歩けないせいで暗い病院で一人で絶望していたあのころの自分を思い出させた。 誰も関心なんか払わない。みんな見捨てる。観にさえも来ない。それが僕の進んでいる『道』 そう思っていた自分にそっくりだった。 ジャイロはそんな僕の限界を打ち破ってくれた。 ならば彼女にも───「何か」が必要なのではないか。 自分の限界を打ち破る、無限へと続く黄金の回転のような「何か」が。 「勉強もした!練習もした!それでも…できなかった!貴族なのに!メイジなのに! 魔法が使えないメイジなんて誰からも認められるわけがないわ!わたしは…わたしは!」 今まで溜め込んできたものを必死に吐き出すルイズの言葉をジョニィは遮った。 「『できるわけがない』」 「え…?」 「他の誰かができても自分はできるわけがない。いくら努力したってできるわけがない。君は今そう思っている。だから限界を感じている」 ジョニィはサンドマンとの戦いを思い出す。自分もそう思っていた。黄金の回転なんか『できるわけがない』と。 「でも本当に出来ないのか?僕の意見を言わせてもらえば君はあんな爆発を起こせるんだ。だったら…君が気付いてないだけで…何か小さなキッカケで…それを見つければできるのかもしれない」 ジャイロが自分の身を犠牲にしてまで教えてくれた黄金長方形を見つけた自分のように。 「そのキッカケが『何か』はわからないけど…。『少しずつ』…少しずつ『生長』すればいいじゃあないか…。今はゼロでも…その『何か』を探して少しずつ『生長』して…そして、そうすれば…最後に勝つのはそうやって『生長』した人間なんだから…」 そう言ってジョニィは教室を出て行った。 自分の言葉が希望になるかはわからないが…それでも『何か』のキッカケになればいいと願って。 一人残されたルイズは呆然と教室の扉を見ていた。 ───今あいつは何を言ったのだろう。彼の言葉には経験に裏付けされた根拠があった。 笑われるものだと思っていた。見捨てられると思っていた。 だがジョニィはそうしなかった。わたしを認めて励ましてくれたのだ。今はゼロでもいいじゃあないかと。 そう思うとルイズは───ただ嬉しかった。 だが素直になれない性格とプライドの高さが災いして次にでてきた言葉は 「ななな、なによ!つ、使い魔のくせして偉そうに!ま、待ちなさい!」 照れ隠しにそう言うと赤い顔を隠してジョニィを追いかけるように教室をでていった。 ───今日の昼ごはんはちょっと豪華にしてあげてもいいかな。 To Be Continued =>